2010年03月01日

3つの墓がある―。(vol.163)

時は戦国時代―。
信州から、駿河の峰に3人の侍が落ち延びてきた。

「ここはすでに駿州。されば、ひとまずは安心じゃ」
と、北澤が安堵顔をさらした。
が、勝美の「しかし…」の言に「応さ」と上仲が頷く。
「このまま3人で行動を共にしてはまずかろうて…、ここからは、別々じゃ」
上仲は言うがはやいか「達者でな」と身を翻した。
これに「待て」と勝美がその背に吐した。
勝美は、霧が鎮まる谷中を指さすと、
「わしはあれなる場所に庵を結ぶが、四郎右衛門、御主(おぬし)はどうする」
と問うた。これに、
「されば、あれなる場所に居を構えよう」と上仲は頃合の一峰(いっぽう)を指さすと、残る北澤が、
「ならば、わしはあの大杉が立つあたりにしよう」と別の峰を指さした。
3人は、互いに肩を叩きあうと、
「我らはこれまで互いを助け死線を潜り抜けた仲じゃ。この仲は、死してもかわるまいぞ」と顔をほころばせた。

やがて、歳月がめぐり、3人は世を去った。

奥藁科に、3つの墓がある―。

栃沢には勝美氏、峰山には上仲氏、杉尾には北澤氏の墓がある。
この3つのお墓は、今でも互いに向きあってひっそりと佇んでいる。



栃沢にある勝美氏のお墓



このお話を聞かせてくれた栃沢の出雲武さん。今年で89歳になられる。出雲さんは、『安倍七騎』の取材からお世話になっている。

あと、私ごとですが―。
わたくし淺羽克典は、来月に、勝美(勝見)氏の末裔の方と結婚します。




  


Posted by 安倍七騎 at 00:21Comments(0)徒然